まだ見ぬ君へ
今日はまだ見ぬ友人の君へ、先に教えておきたいことがある。
もし君が、ほんの少しでも自分を見つけていたら、一度は体験していると思う。
憎しみや悔しさや、過去の嘆きを捨て、人のことを一度でも本当に考えて何かしてあげたなら、体験したことがあると思う。
天国への階段は、崖から落ちて進む。
欲しいものが手に入らなくなる、これで苦労も水の泡———
もうこれからは辛い道しかないんだ
なんの希望もないんだ
そんな気持ちで進むものなのだ。
やけになったわけではない。
本当に心から諦めてそう思うのだ。
もうどうにもならない。
諦めるしかない。
なぜこうなったんだろう。
どうしてこんなことになったんだろう。
こんな未来があると、あの時は思っていなかったのに。
そんな気持ちで、泣く泣く何かを諦める。
なんとかすればパッとうまく行くと思っていた「希望」の道は閉ざされる。
なんの面白みもない。希望もない。
「そんなの当たり前」
でしかない、特に変わったことも起きない普通の人生。
「当たり前のことしか期待できない、なんの変哲もない人生。」
それが絶望に思えているうちは、地獄にしがみつく。
地獄に進む時は、こんな風に思って進む。
こんなコミュ障の自分でも、こんな冴えない自分でも、こんな友達もいない自分でも、こんな取り柄もない自分でも、こんな性格の自分でも…
「こんなに辛い目に遭っても我慢して頑張ってきたんだから」
きっとどこかにわかってくれる人がいて、幸せになれるはず———
君はなんて優しいんだ、そんなに我慢して頑張ってきて、みんなのためを思ってあげて、なんて素敵な人なんだ!
とこれまでの自分の過去に驚いて
「是非そんな君を幸せにしてあげたい」
と救ってくれる人が現れる…。
そんな形の夢物語を思い描いているうちは、地獄にしがみつく。
自分の中では我慢して頑張って優しい自分。
美化した自分しか見ていない。
だが、自分以外の全ての人に対しては…
こんなに優しくしたのに…
こんなに我慢したのに…
こんなに頑張ったのに…
こんなに気を使ってやったのに…
恩着せがましい、傲慢な自分
良いと思えなくても、傷つけないように良いと褒めてあげた、優しい自分
常識はずれなのに、気を使って気にしないふりをしてやった、優秀な自分
頭悪いやつに、まともに取り合ってやった、人を大事にする自分
間違ってるのに、傷つけないように黙っていてやった、心の広い自分
本当はもっとすごいのに、控えめに言ってやった、謙虚な自分
めんどくさいやつなのに、顔にも出さずにいてやった、思いやりのある自分
そんな心優しい、愛情あふれる自分
そんな自分なのに、誰もわかってくれない
こんな優しい自分なのに、みんなは優しくしてくれない
こんなにしてやってるのに、ちっとも感謝してくれない———
だが、そんな自分の真の姿はこう。
他者からの評価を勝手に自分で決めず、ただありのまま、心の中にあるものだけを見たらこう。
なんだこいつ、そんなもの良いわけないだろ
信じられない、常識外れ
頭悪いやつ、どうかしてんじゃねえの
こいつ間違ってるよ、気付いてねえよ
なんだこいつ、めんどくせえやつ
自分の思ったことを、神のように絶対のものとして判断する。
自分は絶対に正しいから。
そして神はこうする。
「そんな奴でもこの優しい自分は、馬鹿にせず、見下さず、傷つけないように気を使ってやる」
褒めてやるか
優しくしてやるか
話を聞いてやるか
スルーしてやるか
黙っててやるか
喜んどいてやるか
こんな馬鹿どもでも、優しくしといてやるか
「俺って、超優しい!」
そんなに優しい自分なのに、周りのみんなは優しくない。
このクズども。
こんなに優しくしてやってるのに、人を疑ってくる。
こんなバカ相手に優しくしてやってるのに、こんな思いやりもない連中相手に親切にしてやってるのに、こいつらは人の努力をなんとも思ってない。
お前らみたいにどうしようもない連中相手に、謙虚に親切にしてやってるのに。
こんなに優しい努力家なのに、誰もわかってくれないのだ。
なんて不幸なのだろう。
こんな冴えないやつが、せっかく馬鹿な連中相手に頑張って親切にしてくださっているのに。
君はどう思う?
可哀想だと思うだろう?
なぜこんなに優しい「冴えないコミュ障の友達もいない、取り柄もない性格の悪い人」が、頑張っているのに。
なんて人間は冷たいのだろう。
ろくな人間がいないのだな。
君もそう思うだろう?
だが、自然界の神はこう言う。
「お前は地獄行きだ」
なぜ幸せになれないのか、気付くまで地獄をのたうち回るがいい
と。
良くないことだと、誰が決めた?
常識は誰が決めた?
頭悪いと、誰が判断した?
間違っていると、誰が判定した?
誰が誰をすごいと言った?
めんどくさいやつだと、誰が決めた?
誰が人々を裁いた
人は神の元に平等。人は神が裁く。
「でもこれは絶対こうだ」と決めたのは誰だ。
判断は誰だ。
「それはあの人が…」
あの人に誰が話した。
誰が誰の判断を、話した。
できない者、弱い者、持たざる者に、優しさの欠片もない傲慢な人間。
さあ、みんな聞いてくれ。
この優しい「冴えない人の心の中」を。
気づかずにいるのは罪だから、心の中でこの人がみんなを今までどう思っていたのか聞いてくれ。
心の中を全部知ったら、きっとこの「優しい方」に感謝するだろう。
さて、この優しい方は地獄にいるわけだが、不思議だと思うかい?
皆が罪悪感に苦しみ、悔しい思いをし、これまでの人生を後悔することがこの方の幸せだ。
こんなに優しい人はいない。
みんなの幸せを願っている。
この方の夢が叶ったら、みんなの心は罪悪感と後悔でいっぱいになるんだ。
それを与えようと頑張っているこの方が、なぜ不幸になるのだろうね。
僕は変わり者なので、不思議に思わない。
だが、君はきっと不思議だろう。
冴えないコミュ障の特になんの取り柄もない、ありふれた程度の目立ちもしない大したことの無いやつ。
気を使って優しくしてもらえていた、この人
間違っているのに気付かないから黙っていてもらえた、この人
頓珍漢なことを言っても、気付いていないのでスルーしてもらえていた、この人
本当は大したことないのに、褒めてもらえていた、この人
常識はずれなことをしても、黙っていてもらえた、この人
褒めてもらいたがっているから、気を使って褒めてもらえていた、この人
他人がずっとそうしてくれていたことに、気付いてすらいない、この人
そして結果がおかしいと嘆いている、頭の悪いこの人
ミエミエなのに、スルーしてもらえていた、この人
その程度の他人なら、「当たり前」に手に入らないと思うものを、自分は手に入ると信じている、現実知らずのこの人
図々しい夢を、いい年して本気で見ている、この人
黙っていてくれた人たちに、感謝もしていない、この人
人の優しさに、気付きもしない、この人
自分だけできてるつもりの、ナルシストなこの人
してもらえていることには、気付きもしないこの人
きっと僕が子供の頃のままだったら、こうなっていただろう。
こんな奴はどうしたらいい?
殺した方がいいな。
こんな醜い鬼は、心の中で一度死ね。
バカは死ななきゃ、治らない。
だから崖から飛び降りるのだ、全ての「希望という名の図々しい妄想」を捨てて。
そして
天国にたどり着く。
君がもし一度でも体験したことがあるならば、先に言っておく。
行き詰まるたび、この崖に到達する。
毎回毎回、これから何もない人生だと諦めて崖を飛び降りる。
絶望するだろう。
絶対にそこに幸せなどない、と思えるだろう。
だが、毎回諦めた先に天国はある。
毎回だ。
だからどんなに辛くても、諦めないで欲しい。
人生を諦めることなく、しがみついている夢を諦めてくれ。
必ず今までより幸せになる。
必ずそうなる。
そうなるように、できている。
最上 雄基