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奴隷の子

 自由とは

 強要のない世界のことであった

 僕のために僕が望んだことをしてもらえる世界ではなかった

 それを僕が自ら望んでやらせたら

 それが強要の世界である

 僕一人が喜んで皆が我慢する世界である

 僕は奴隷の子であった

 常に何かをしていなくては、そこにいてはいけないと思っていた

 そこに居る時は

 常に何かを要求されていた

 人間は要求してくるものだと思っていた

 人間とのやり取りはそういうものだと思っていた

 だが、自由な世界では

 受け入れてくれる世界では

 何もしなくて良い

 と気付いた

 僕は何も求められない

 僕がそこにいることは自由なのだ

 何を言われても

 言われただけ

 要求ではない

 「ふーん」「そうなんだ」

 ただ知りたいだけ

 それだけ

 何もしなくて良い

 となったら、僕は何をしたらいいのかわからなかった

 命令をくれないと、批難されないと、欠点を指摘されないと

 とにかく他人が何かしてくれてからでなくては、僕には何をしたらいいのかわからなかった

 まず誰かが僕を構ってくれないと

 僕は何もやりたいことがなかった

 僕は何もやりたいことがなかった

 何をしたらいいのかわからない

 落ち着かない

 自由な世界は落ち着かない

 束縛された世界しか知らなかった僕は

 自由な世界が落ち着かない

 監視されていたい

 命令されていたい

 強要されていたい

 批難されていたい

 そうでないと、何もできない

 そして僕は、自分からやりたいことは何もない

 好きにしていい世界なら、と望んでいたのに

 いざそうなっていることに気付いたら

 何をしたらいいのかわからない

 みんなは何をしてるの?

 僕は初めて他人が気になった

 今までみんなは何をしていたの?

 僕が知らない世界で

 自分以外の世界を知らないのに、僕にやりたいことがあるわけがない

 ただ、してほしいことだけが山ほどあった

 僕がしてあげたいことはなにも無い

 してほしいことがあるだけで

 僕がやりたいことは何もない

 「僕は何もやりたいことがない」

 ということに、気付いた

 友達は何をしているのかな?

 僕はまだ見ぬ世界に、初めて関心を持った

 友達は知らないことを沢山やっていた

 僕が勝手に妄想していた世界とは全く違う世界が広がっていた

 妄想していた良いでも悪いでもない

 全く違う世界がそこにあった

 僕には初めて

 「僕もあんなことしたい」

 が生まれた

 「僕もやりたい」

 が生まれた

 少しずつ「やりたい」が増えた

 そして

 僕も何かをしてあげたい

 が生まれた

 友達には友達の世界があった

 その世界の話を聞いた

 その世界を一緒に見て回った

 想像の中で

 僕もやって欲しかったなあ

 今僕がしていることを

 僕もやって欲しかったなあ

 僕はもうそんなことはしてもらえないけど

 やって欲しかった

 それだけだった

 「お前は?」

 僕がしてあげるようになると

 友達は僕に関心を向けた

 僕は

 見せられるような立派なものがない

 と思った

 だが

 友達が関心を持ったのは僕だった

 社会の優劣をつけたいわけではなく

 僕について知りたがった

 神も正しい者も———

 「最初からそこにあると早く気づきなさい」

 最初からそこにあった

 僕

 最初からそこにあった

 これだったのだ

 「何したい?僕」

 ぼくは…