月: 2021年8月

本を読む時に重要なこと

 本を読む時に重要なことに気を付けて欲しい。

 とりあえず、心理学の本についての話として考えて欲しい。

 著者はどこの国の人なのか?

 どこで生まれた人であり、信じている宗教は何か?

 どのような経歴で、どこに所属しているのか?

 何年に書かれたもので、当時著者がいた場所では何が起きているどのような状態だったのか?

 それらを気にして欲しい。

 自分自身がたった今読んだものであっても、心理学において「名著」とされるものの多くが戦前に書かれたものであり、国の事情や人種的宗教的問題を無視して著者の視点を理解することはできないからである。

 そして、昔は定説であったことも、その後科学や医学の進歩に伴い事実とされるものが変わったこともある。

 それらの流れを理解した上で、「著者を想像して読む」ということを心がけて欲しい。

 また、現在の日本についてもよく理解した上で、それらを自分自身のために役立てるよう使って欲しい。

 なぜこのような注意を書いたかというと、特に精神分析学の本は「非常に辛辣」と思えるほど事実をそのまま書いてあるものが多く、気にし始めたらどんな人でも何某かの欠点があるのだから「なんとかしなくては」と思うのは当然だからである。

 完璧な状態、というものを目指すならば、まず完璧な過去でもない限りそれは不可能である。

 そして、現在の日本が敗戦後「普通ではない状態」として成り立っているのだから、まず今を理解してその中で皆で生きていく方法を考えるべきだろう。

 どんなに著名な心理学者であっても、例えばあのアドラーも偉大な師であるフロイドとの関係で葛藤していたと言われているように、みな悩みは抱えて生きていくのである。

 葛藤から逃げず、失敗してもくじけることなく生きていく「姿勢」が重要なのであって、完璧な人間という商品になればいいという話ではないのだ。

 そしてそれぞれの人生において必要なことは違うので、どんな家のどんな状況で生まれたのか、自分たちの未来のためには何が必要なのかなど、それは自分にしか考えられない、わからないことなのだ。

 何よりも大事なことは、僕たちは僕たち自身の過去や歴史を失うことなく、「本当に自分たちがうまく生きていける方法」を模索して生きていくことが大切だと考える。

 自分一人で完璧な存在になる必要など全くなく、家族や仲間と協力し、良い友情や愛情を育み、また社会への貢献や共同体としての活動に参加していけばいいのだ。

 現実問題を言えば、今の日本のように、心理学者ジンバルドーが「世界一責められている」と述べた子供たちが元気いっぱい夢いっぱいでたくましく生きていくことは難しいと思える。

 可哀想がって「もっと優しくしてあげて」と人を責める必要もないが、子供たちに新しい道を用意したり、またたくましく生きていける方法を考えたり、動かせない大きな力を動かすことに意欲を燃やすより、たった今も生きている子供たちの今を考えるべきではないかと考える。

 何よりも僕たちは「とても辛い時代に生まれたのだ」という自覚をした方がいいだろう。

 楽な時代など存在しないが、それにしても「見た目より遥かに見えない苦労が多い時代に生まれてしまっているのだ」という自覚をして乗り越えて行くべきであろう。

 見た目通りに問題が無いと言える時代に生まれたのならばいいのだが、例えば神経症者に対して「乗り越えるべきこと」とされる課題があったとしても、「ならば乗り越えてうまくいく社会なのかどうか」という問題も残されている。

 自分一人頑張れたところで、勇気を出して心を開いても周りが元々受け入れてくれない人たちばかりだったならばどうだろうか?

 せっかく愛情ある親の元で生まれても、意欲を持って社会に出たら「共同体感覚」が無い人ばかりの職場だったならばどうだろうか?

 仲間を庇ったところで、周りの誰一人も自分のことは庇わない人たちだったならばどうだろうか?

 とりあえず、精神分析学者の本などの場合は

 「あくまでも社会そのものには問題がないとして個人の人格について分析したもの」

 と考えた方がいい。

 「じゃあそれをやったら本当にうまくいくのか!俺の周りの連中なんてなあ…」

 と言い出したらキリがないからだ。
 構造的にはそうなっている「らしい」という解釈で問題ない。

 他人に教えられたことは全てにおいて「そうらしい」でしかないのだから。

運命の境界線を超えた勇気

 今回は、神経症者が世界の境界線を超える時に酷似した現象を映像化した作品を紹介したい。

 STARTREK TNG season4 “Remember Me”  邦題「恐怖のワープバブル」

 アメリカの国民的人気SFドラマ、スタートレック ネクストジェネレーションの一作である。

 その昔、日本では「宇宙大作戦」という邦題でテレビ放送されていたドラマシリーズの次世代シリーズとして世界でも人気を博している。

 かなり古い作品だが、動画サイトで全話配信されているので簡単に視聴できる。

 この作品自体を僕はお勧めしたい。
 宇宙船を舞台に繰り広げられるSFドラマでありながら、非常に人間的、哲学的なことに重点を起き、人間ドラマが主軸となって毎回の作品が独立したストーリーとなっている。

 一作一作が映画のような作品である。

 「人間」「人生」「差別」「偏見」「恋愛」「親子」「友情」「仕事」「文化」「歴史」

 様々なことについて考えさせられる作品で、特に答えが出ないまま終わる作品も多い。

 「ただ起きている実際のドラマ」を観て、考えさせられることが非常に多いドラマである。

 観ているだけで何も考えずに終わる作品とは違い、感覚だけが残り、考えずにはいられない、素晴らしいドラマシリーズだ。

 これを観ていると、本質的にはみな人間だから似たようなことがどこの国でもあるものなのだなとよくわかる。

 そして、神経症を通り越した存在、アンドロイドの「データ少佐」という士官が非常に興味深いキャラクターである。

 能力は人間を遥かに超えるが、感情が無い。

 人間になりたいという夢を持ち、常に人間を観察しながら模倣している。

 彼が真剣に人間を模倣する様は時に滑稽で笑いを誘う。

 「冗談がわからない」

 これが彼の課題のひとつである。理屈で何が面白いのか考えて理解しても、その場で笑うことはできない。

 「これこれがこうなったから、今起きたことは面白いのだ」

 そのような理解をして、「笑う真似」をするのだ。神経症的行動と呼べるが、人間ではないので「ロボットなんだな」という理解になるだろう。

 だが、段々と完璧人間を目指した人々が彼に近づいてきていることは、言うまでもない。

 そして、完璧な能力を備えたアンドロイドのデータ少佐は「感情が無い」ことに悩まなくてはならないのだ。

 彼こそ神経症者が欲しかったものを全て持っている存在であるが、我々が捨てている「感情」を誰よりも欲しているのである。人間の矛盾をそのまま突き付けている存在だと言える。

 そしてこのドラマには様々な異星人や人種が登場するが、「24世紀になり既に地球人は戦争をやめ理解し合うことに成功した」という設定が素晴らしい。

 どう理解しあっているのか、どう争いをやめたのか、今後我々が平和的に生きていく参考になるのではないかと思う。

 そのドラマの中で、今回紹介したいのは先に書いたタイトルの一作である。

 参考になる作品は多々あるが、視聴しつつ確認している中でこれはと思ったのが今回紹介する「Rwmember Me」である。

 邦題は「恐怖のワープ・バブル」。

 主人公たちの乗る宇宙戦艦、エンタープライズ号に乗船する士官の一人であるドクターが、「どんどんクルーが消えて行く」という怪現象に遭遇する話である。
 しかも、自分以外のクルーたちはそれに気づいていない。「最初からそうだった」と言う。

 たった一人、どんどん周囲の人たちが消えて行く現象に見舞われながら戦うドクター。
 必死で訴えるが、周囲からは段々と「ドクターの方が正常ではない」と思われていく。

 なんとか皆が消えて行く原因を突き止め、また消えたクルーを救出しなくては、と必死になるドクターだが、甲斐もなくクルーたちはどんどん消えて行く。

 途中、艦内に現れる竜巻現象にも襲われながら、生き残りをかけて戦う。

 「誰も私をわかってくれない。」

 そのような状態で、孤立していくのである。

 「本当なの!信じて!」

 訴えても訴えても、記録を確認してもドクターが言う話の根拠がない。

 1,000人以上いたクルーが300人を切っても、みな口々に「最初からこうだった」と言う。

 なんとか「ワープバブル」という現象が原因でそこに吸い込まれて消えてしまったのではないかという仮説にたどり着く。
 しかし、クルーが消えた原因と言える事実が発見されない。

 原因を探すうちに、ドクターは気づく。全員が消え、たった一人になって気づく。

 「消えてしまっているのは私の方ではないか?」

 皆が消えたのではなく、私が一人で消えて行ったのではないか?

 「吸い込まれて消えたのは、私の方ではないか?」

 皆が信じてくれない。私がおかしいのか?だがそうではない。

 では皆がおかしいのか?それも違う。

 誰が正しいのかの論争の先にある、「発見した現象により消えたのが私の方なのだ」という結論に到達する。

 現実の世界では「消えたドクター」を救出するためにクルーたちが力を尽くしていた。

 その現象を理解する「旅人」と呼ばれる異星人が説明する。

 ドクターは「自分で作り出した認識の世界に存在している」と。

 そして「ドクターが作った認識の世界には入ることはできない」とも言う。

 ドクターが作った認識の世界と現実の世界を繋ぐ道を用意すれば、そこから脱することが可能だと旅人は言う。

 その理論から作られた「救いの道」が、ドクターが吸い込まれないように逃げ回っていた「竜巻現象」だったのだ。

 「吸い込まれたら死んでしまう!」と思って逃げ回っていた竜巻現象。

 「信じてもらわなくては死んでしまう!」と思って訴えていた自分の認識で作り出したクルーたち。

 最終的には、たった一人になって考え、発想を逆転させて答えにたどり着いた。

 そして勇気を出して、どんどん消えて行く「認識の世界」から脱するため竜巻に飛び込んでいく。

 外から自分を助けようとしてくれているのだと信じて、逃げ回っていた竜巻に飛び込んで行ったのだ。

 

 吸い込まれた向こうにある世界は、現実の仲間たちがいる元のエンタープライズ号だった。

 

 危険だと感じているものに飛び込んでいく勇気は、ナルシシズムの境界線を超える時にそっくりだった。

 「今までの認識を逆転させた」

 世界ごと逆転させ、自分の認識している自分の存在を逆転させて見てみたのだ。

 誰が正しいかおかしいかと争っている時は、世界を逆立ちして見てみればいい。

 今まで逆さまに歩いていることが、本当にあるのだから。